山のあなた 〜徳市の恋

昨日は家内が観たいという映画につき合ってきました。

24日に封切りされた草磲剛演じる心の入浴料 どなたでも1人1000円という『山のあなた〜徳市の恋』です。この映画、「入館料」のことを「心の入浴料」と言っているところが面白いですね。(笑)

24日に東京・TOHOシネマズ六本木で行われた初日の舞台挨拶では、監督が寝坊して初回の挨拶を欠席したという大失態の珍事までオマケがついていました。





山のあなた 徳市の恋』(90分)は、昭和初期の名匠・清水宏監督の1938年の白黒作品『按摩と女』(66分)を、石井克人監督が草磲剛の主演でカバーした作品です。

原版を出来る限り忠実に再現し、台本もなかったので原作の映画を観ながら台詞を聴いて起こす努力をしたと言い、草磲自身実際に按摩さんについてマッサージを勉強し、撮影中も按摩さんに現場に来てもらって指導を受けて本作品の制作に取り組んだと聞きました。






石井克人監督は、70年前のオリジナル作品は白黒で映像に揺れがあるので、それをカラーにして、もっといい音楽がついていたら・・・という発想で高音質、高画質で観たいという好奇心からこの作品を作ることにしたと言います。そんなことから、石井克人監督は本作品はリメイク版ではなく、オリジナルと同じカバー作品であると言います。

原版の徳市(徳大寺伸)の役を草磲剛、福市(日守新一)を加瀬亮、謎の女三千穂(高峰美枝子)をマイコ、子供を連れた男(佐分利信)を堤真一、子供(爆弾小僧)を広田亮平が演じています。




こんなお話しでした按摩の徳市(草磲剛)と福市(加瀬亮)は毎年海辺の温泉場から険しい山道を歩いて山奥の温泉場に向かう。

二人は盲人でありながら歩く速度は速く、目の見える人(目明き)たちを追い抜くのを楽しみにしている。勘のいい徳市はその道すがら前から来る子供の人数を言い当てたり、男女の別やさらには職業までも言い当てる事ができる。後方から乗合馬車が追いついてきてこの二人を追い越すが、馬車には東京から来た女(マイコ)と、子供(広田亮平)をつれた男(堤真一)が乗っていて、御者はこの名物あんまのことを3人の乗客に説明している。

按摩専用宿についた徳市たちは、それぞれ仕事に出かけるが、この日徳市が呼ばれてマッサージをした女は、馬車で追い抜いた東京の女だと知る。

徳市は温泉宿のキクという女中に惚れているが、どこか陰があるこの謎の女に次第に惹かれていく。ところがその女は馬車で一緒だった男と子供とも交流を持つようになり、二人が泊まっている別の宿に出向く。しかし徳市はそんな様子が面白くなく苛立つ日々を送るが、独特の勘で女が何かを怖れていると感じる。

そんなある日、女の逗留している宿で宿泊客の財布がなくなり、また男と子供の泊まっている宿でも盗難事件が起こる。周辺の宿で次々に起こる盗難事件に警察もついに動きだし、温泉町を包囲して逗留客を片っ端から調べ始めた。

それを知った徳市は先手をとって謎の女のところへ走り、ここにいては捕まると宿から連れ出す。二人は裸足で温泉宿から逃げ出すのだが、謎の女、三千穂は――。







草磲剛の演技もさることながら、心洗われる美しい山あいの風景はオリジナルの白黒では味わえない深い緑をかもし、全体をゆったり流れる時間に、こんな温泉町で劇中のほのぼのとした人情味溢れるあたたかい人物たちに会ってみたい・・・。





そしてのんびりと温泉に浸かって、徳市のようなユーモアに満ちた按摩に肩でも揉んでもらって、三千穂のような風情ある女性と時を忘れてお酒でも酌み交わしながら、日本の恋をしてみたい・・・・。

と、想像の尽きる事はありませんでした。

現代人が忘れかけた一昔前のおだやかな美しい風景がここにあります。



※下2枚の写真は川縁りで蛇の目をさした三千穂のスチール写真ですが、マイコのカバー版と高峰三枝子の原版の対比です。