遺族の悲しみに時効はありませんから・・・

東京都内の区立小学校で1978年、同校教諭の石川千佳子さん(当時29歳)が警備員だった男(70)と学校の廊下で出会い頭にぶつかったことから口論となり、この警備員に殺害され、2004年の自首まで遺体を隠し通し、刑法上の時効(当時15年)が成立して不起訴となったという裁判がありました。



その後、遺族は元警備員と雇い主の同区に対し、民事裁判を起こし、約1億8600万円の賠償を求めていましたが、東京地裁は26日、殺害に対する賠償は民事上の時効ともいうべき権利の存続期間20年(民法除斥期間)を過ぎ請求権が消滅したと判断し棄却、その一方、2年前までの遺体隠匿については請求権を認め、元警備員に330万円の支払いを命じた、というものでした。

写真は判決後に東京高裁に控訴を決めて記者会見する原告で千佳子さんの弟の石川雅敏さん(左)と憲さん=26日午後、東京・霞が関で(朝日新聞提供)






私はこの判決を聞いて、だいたい殺人事件に時効があること自体がおかしな制度であると思いました。

迷宮入りした事件を、いつまでも解決の目途すら立たないまま、いたずらに捜査本部の設置を長引かすことが、他の捜査の障害になること、いつまでも解決できないことが警察の権力の失墜につながること、さらには、国として古い事件をいつまでも裁判に持ち込まれることになると、事件自体の記憶も定かでなくなり、経済的な面においてもマイナスであること、これらの点から時効制度が法制化されたと聞きました。

しかし、事件を解決できないからと打ち切ってしまう"国家権力"と、やったことは消えることなくいつまで経っても事実として残る"犯罪"、この相反する2つを「時効」という法制度でひとまとめに括ること自体がそもそもおかしいと思います。

他の捜査の障害になるのであれば、そしてまた、キリがなくいつまでも経済コストが問われるというのであれば、現在の時効の期限を一応の捜査本部の解体期限とし、新証拠が見つかるか、今回のように事件に進展があったときに、改めて捜査本部を設置し直せば済むことではないでしょうか。古い事件であっても今の時代、すべてデータベース化すればこの辺りが問題になることもないと思うのですが・・・

アメリカやイギリスに時効の制度はないと聞いています。

殺人事件などの凶悪犯罪において、殺し得・隠し得・逃げ得は、絶対に許されません。

償いに時効はありません。 そして遺族の悲しみにも時効はありません。


それにもうひとつ言いたいことは、日本の懲役刑は海外に比べるとはるかに軽すぎるということです。 服役期間が終わり、更正できずに再犯罪を犯す犯罪者がどれだけいることでしょう。 日本が犯罪者天国と言われる所以です。

日本も海外の判例にならって懲役200年刑や300年刑があってもいいと思います。そうすれば仮に恩赦が2度3度あっても、到底シャバには出てこられませんから。






関連記事: 
 . . 高村智庸の「ワイドショー事件簿」[2004/09/11] から

 . . 写真はテレビ朝日・ワイドショーリポーター高村智庸さん


時効後発覚した女性教師殺人事件の顛末 



 「まだ、姉だと確定していませんから……」その男性は、私の目をじっと見ながら、その先の言葉を飲み込んだ。

 8月21日、警視庁綾瀬署に68歳の男が自首した。今から26年前、東京・足立区の区立小学校で警備員をしていたこの男は、教諭の石川千佳子さん(当時29歳)を殺害し、この男が住んでいた自宅の床下に遺体を埋めたというのだ。

 翌22日、男の元自宅の床下約1メートルから、ビニールシートに包まれた遺体と石川さんの名前が入った所持品が見つかった。この男は警察の調べに対し、1978年8月14日午後4時半ころ、夏休み中の誰もいない小学校内で、「廊下を歩いていたら、出会い頭に石川さんとぶつかり、口論となった。石川さんに騒がれたので、口をふさいで殺した」という。その後石川さんの遺体を車で自宅まで運び、妻の留守中に4時間かけて、スコップで床下に穴を堀って埋めたという。

 男の供述どおりなら、事件に至る事情の真偽は別にしても、発見された遺体は石川千佳子さんということになるが、警察は見つかった遺体をDNA鑑定して身元の確認を急いでいる。石川千佳子さんは北海道小樽市に生まれた。札幌の大学を卒業後、東京の小学校の教諭になったという。小樽市に住む千佳子さんの弟・憲さんに会った。

 千佳子さんは78年の7月末から8月12日まで、東京都教職員生協主催の東西ヨーロッパ研修旅行に行っていた。その直後の8月15日、勤務先の校長から「当直なのに出勤していない、そちらに居ませんか」と小樽市の実家に連絡が入った。家族にはまったく心当たりがなく、警察に家出人捜索願を出したものの、行方が分からないまま時は過ぎて行ったという。

 それから10年程した87年、大韓航空機爆破事件が起きた。実行犯キム・ヒョンヒの日本人教育係「李恩恵」が、もしかしたら石川千佳子さんではないかと考え、北朝鮮による拉致の可能性を考えたという。そして、蓮池さん、地村さん、曽我さんら5人が帰国した姿を見て、生きているならいつか帰ってくるとの思いから特定失踪者問題調査会に届け出て、93年には名前と写真を公開していた。

 自首した男が千佳子さんと口論になったと言っている事について、弟の憲さんは「それは無いと思います。姉が人と争う姿を見たことがありません、穏やかな性格でしたから」さらに「死人に口無しですよね」とも言った。この遺体が姉の千佳子さんだと確定したら、千佳子さんのことを心配しながら、胃がんで亡くなったお父さんの墓に一緒にしてあげたい、と話してくれた。

 26年に渡って隠し続けていた男が自首することになった背景には、ある事情があった。事件当時、この男は東京・足立区に住んでいたのだが、道路拡張のための区画整理事業が進められていた為、かなり前から立ち退きを迫られていた。住んでいた家が取り壊され更地になれば、隠してきた遺体が発見され、石川さん殺害がばれてしまう。男は抵抗した。区役所には「高齢の夫婦二人暮しで、移転できない」と強硬に拒んだという。

 私は8月末、足立区の男が以前住んでいた所に行ってみた。その2階建ての家は他人を一切寄せ付けまいとするかのように、まだ建っていた。

 周囲を2メートルほどの塀で覆い、その上には金属性の網や有刺鉄線が張り巡らされ、入口には防犯用のカメラまで設置されていた。近所とは挨拶も交わさず、子供が騒ぐと言っては怒鳴り散らし、棒を手に追いかけ回したり、宅配便が来ても門の外で受け取るなど、自分の家から人を遠ざけていた。ゴミだしも自分でやり、妻ですら外出させていなかったのか、1人住まいだと勘違いしている人もいた。ただただ発覚を恐れ、隠し通そうとする男のずる賢さしか感じられなかった。

 この男は殺人事件が「時効」であることを知っていたという。

 68歳の自首した男は、現在千葉県内に妻と住んでいる。なぜ石川千佳子さんを殺したのか、石川さんに対してどう思っているのか、今までどのように生きてきたのか、これからどうするつもりなのか等々疑問は尽きない。しかし、男は一言も答えることは無く、謝罪の言葉も無かった。そして「自分の姿や音声を放送したら告訴する」とだけ言った。

 この殺人事件は時効(15年)が成立しているため、この男を法律で罰することは出来ない。被害者やその家族にとって、これほど納得のいかないものはない。

 公訴時効の根拠には、長い時間の経過によって証拠が散逸していること。犯人は長い間、良心の呵責と後悔の念をもって生活してきたが故に、実際の罰を受けたのと同じ状態にあることなどが挙げられている。しかし、この男の場合、これらの根拠の当てはまるのだろうか。

 そしてまた新たに、殺人事件の時効が成立して、不起訴になった男がいることが分かった。約20年にわたって空き巣や事務所荒らしを繰り返し、今年1月に千葉県警に窃盗容疑で逮捕され、公判中の42歳・無職の男である。

 この男は、今年1月に逮捕された時、茨城県取手市に豪邸を持っていたことで話題になった。150平米のブロック塀で囲まれた、コンクリート造りの建物は、地上3階地下1階で、ドアには3個のカギと防犯カメラが設置されていた。建設費用約5000万円。これすべて20年に渡る泥棒によって造られたものだった。

 調べによると、男は16年前の88年11月1日、東京・昭島市の公団で、主婦(当時40歳)の胸を刺し、殺害したと自供した。裏付け捜査の結果、男の供述には矛盾は無く主婦殺害の犯人と断定されたものの、この事件も時効の成立により、自供した男は不起訴処分になったという。

 ここに挙げた2人の男は、ただ単に15年以上の時間を逃げ延びたということであって、自分の罪に良心の呵責や後悔の念を持って生きてきたとは、到底思えない。まさに「逃げ得」以外のなにものでもない。

 殺人がたった15年で免責されてしまう。殺人罪などの時効が短すぎるという議論はされている。がしかし、被害者や遺族にとっては、なんとも許しがたい気持ちだろうと思う。

 もし時効前だったらどうしたのか、本当のことを話したのだろうか。

(高村智庸)


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