出産費用を無料化しても・・・育てる費用がないのですから

猪口邦子少子化担当相は13日の記者会見で、少子化対策について「フリーバース(出産費無料化)を広く検討することは視野に入る」と述べ、出産費用の無料化を検討していく方針を明らかにしました。

昨年、日本の人口が初めて減少していることが判明し、若年夫婦などの経済負担を軽減することで少子化に歯止めをかけられるのではないかというのが狙いのようです。

現在、健康保険組合などの公的医療保険から、「出産育児一時金」として30万円が支給されていますが、政府はこの一時金を今年10月から5万円増額して35万円とする健康保険法の改正案を20日からの通常国会に提出する方針です。

支給対象年齢が小学校入学前までだった児童手当制度が、2004年4月には小学校3年生まで拡大されましたが、こちらも更に小学校6年生の3月(12歳到達後最初の年度末)まで拡大される方針です。

併せて現行の支給制度所得制限が、年収780万円以下から同860万円以下に緩和される予定です。

3歳未満の乳幼児に対する「育児手当」の新設や6歳未満の乳幼児の医療費も本人負担分を国が全額助成し無料化することも検討しています。

こう書き綴ってみると、少子化の歯止めにいいことづくめのようですが、手放しで喜べない問題もあります。


日本が昨年から初の人口減少社会に突入したことが判明して政府は危機感を高めていますが、小泉首相は、少子化対策に「即効薬はない」と決め手を欠いてる状況です。しかし、人口の減少は以前から分かっていたことですし、今になって「即効薬がない」と居直るのもおかしな話です。

統計的には毎年23万人減少し、10年後には230万人の減少が見込まれているそうです。高齢化社会において、その財源を支えるのは新生児人口の増加以外には考えられなかったはずです。

政府は、出産無料化制度、育児手当の新設、乳幼児の医療費無料化、児童手当の支給期間拡大、所得制限緩和等、今回の財源をどう確保するかが最大の課題としており、今後関係省庁と調整していくと言っていますが、なにをおいても先ずこれらの財源は一番に確保されるべきです。社会が崩壊してしまってからでは遅すぎるのです。



リクルートが2003年に行った調査によると、出産にかかる費用は、入院・分娩費38万7千円、出産準備品購入費14万8千円、内祝い(お祝い返し)費用13万3千円など、総額では66万6千円にも及びます。

2002年の調査(63万6千円)から、さらに4.7%、金額にして3万円も上昇しています。個人差もあるでしょうが、その調査から3年、同じ比率で上がっているとしたら、今年はなんと76万5千円も掛かることになります。

そして出産後さらに、紙おむつやミルク代、衣類など月1万円以上の出費が必要だとしています。

猪口少子化担当相が国会で検討することは視野に入るとした「フリーバース」ですが、これは現在の30万円を35万円増額して支給する「出産育児一時金」です。

従って、先のリクルートの例からすると、入院・分娩費用にも及ばないことになります。

確かに子供を一人産むのに、この出産費用は大変な額だと思います。しかし、産むことにかかる費用は1回だけです。もちろん出産費用の無料化は大変よろこばしい事ですが、

 出産費用以上に、子供を作らないもっと深刻な問題があると思います。

 それは、産まれた子供を育てることです。


子供を一人育てるには、大変な費用がかかります。その継続的な費用を考えると、「子供はいらない」、「いても一人でいい、それ以上産んだら生活をしていけない」というパターンになっているのです。

子供をつくっても負担が掛からないシステムを作り上げなければ、少子化対策の方程式はなりたちません。そういう意味では児童手当の支給期間、支給制度、支給金額などの充実のほうが先決課題となってきます。

思い切って、中学3年生まで、所得制限1千万円以下、義務教育費用の無料化くらいの拡大をしてもらいたいものです。

さらに、今年は定率減税半減で、年収700万円の夫婦と子ども2人の世帯では最大で1カ月当たり2900円の実質増税となります。厚生年金や雇用保険社会保険料の上昇分を加えると、1カ月の負担増は3600円にもなります。来年にはさらに追い打ちをかけるように定率減税の残り半分も全廃されることになります。

すべての財政のおおもととなる出産を促進させるためには、その少子化対策の財源確保のために使用使途を明確にして消費税の増税分をあてるなどして抜本的な改正案を作り、出産を奨励しなければなりません。

新生児の人口が増えてこそ初めて成り立つ日本の財政です。新生児が新成人となるまでに20年もかかるのです。20年後を見据えて政府はもっと危機感を持って下さい。

もう後がありません。


(参考資料)
 政府は12日、少子化対策の一環として、入院を含めた出産費用全額を国が負担する「出産無料化」制度導入の検討に着手した。

 若年夫婦などの経済負担を軽減することで、少子化に歯止めをかけるのが狙いだ。

 政府の少子化対策は、〈1〉働く女性が出産後も社会復帰しやすい環境作り〈2〉出産や育児などの経済的負担の軽減――の2点が大きな柱となっている。(読売新聞 2006年1月13日)

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 政府は現行の「出産育児一時金」について、20日召集の通常国会で健康保険法などの改正案を提出し、30万円から35万円に増額する方針。

 政府は、日本が昨年から推計値で初の人口減少社会に突入したことを受け、3歳未満の乳幼児に対する「育児手当」の新設や6歳未満の乳幼児への医療費無料化なども検討している。(毎日新聞 2006年1月13日)

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 政府は4日、少子化対策の一環として、3歳までの子どもを持つ保護者を対象とする育児手当制度を新設し、さらに6歳児までの医療費を全額無料化する方向で検討に入った。育児手当は月額1万5000円を軸に調整する方針。

 育児手当は、現行の児童手当(第2子まで月額5000円、第3子以降同1万円)に加えて助成するもので、児童手当制度を参考に所得制限を設ける意向。

 児童手当は来年度から、支給対象を小学3年以下から同6年以下に広げ、所得制限も一般のサラリーマン家庭で860万円未満(現行780万円未満)に引き上げる予定になっている。

 一方、医療費の病院での窓口負担は現在、3歳未満が2割、3歳以上が3割。乳幼児医療費については地方自治体が独自に助成制度を設けているケースも多いが、この本人負担分を国が全額助成する考えだ。(毎日新聞 2006年1月5日)

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 少子化対策は軒並み増額となり、その目玉は児童手当の拡充。

 来年4月から支給対象を現行の小学3年生から小学6年生までに拡大し、保護者の所得制限も現行の約780万円未満(給与所得者の年収ベース)から約860万円未満へ緩和する。

 現在は該当する子どもがいる世帯の85%が対象だが、これが90%に増える。金額は現在と同じく第2子まで1人当たり月額5000円、第3子以降は1万円が支給される。 (共同通信 2005年12月20日





写真は毎日新聞さんよりお借りしました